花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
手の中にある本の表紙を撫でながら、非難がましい目で見てくる。
「ごめんって」
「別にいいんだけどね。でもまぁ、」
私もこのお話読んでて、ちょっとだけ思った。
「最後はやっぱり笑顔で終わりたいし、人が死なないと泣けないってことはないじゃん? 偽善者って言われるかもしれないけど、誰かに望まれてる人が死ぬのは……やっぱりやだなぁ」
その物語の主人公は、最期、愛する少年と家族に看取られて亡くなっていった。
もしあの少女が亡くならなかったら、あのお話は物語になりえなかったのだろうか。
そんなことはないと願いたい。
「西さんは、自分が望まれてるって思う?」
「葵くんはどうおもう?」
質問に質問で返すのはずるい。俺に恥ずかしいことを言わせるための誘導尋問か?
「さっ、さぁ? どうだろうね!!」
なんとなく彼女の笑顔にのせられるのは癪だった。俺が逃げたことをわかっている西さんは、ニヤニヤと笑みを浮かべて言う。
「照れ隠しとか、思春期だねぇ」
「西さんも思春期だろ!! 自分のこと棚に上げんな!!!」
こんなにぎゃいぎゃい騒いでいたら誰か来るかもしれない。本来、保健室は静かでどこか緊張感が漂っているものだけれど、この保健室は違う。
にぎやかで、どこか心臓が冷えるような感じのする消毒液の代わりに、今日も甘い花の香りがする。
「本、また貸してよ。今度は誰も死なないやつ」
「おっけー任せて。家にある本棚ごと持ってこようか?」
「上等だ。背負って帰ってやるよ!」
力こぶを作ってみせると、西さんが人差し指でつついてくる。
女の子の指は細くて、少しだけこそばゆかった。
「そうだ、」
何かを思いついたのか、彼女の背筋がピンと伸びる。
一度瞬きをして、彼女は言った。
「私、明日から教室行くことにするから。ちゃんと待っててね」