花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く


 放課後は、少し憂鬱だ。

 部活や遊び、高校生活の楽しみが凝縮されたような時間なのに、俺はその輪の中に入ることができない。けれど、決して目はそらさない。


 「葵くん! 今度またバスケ一緒にしよーね」

 「次は右手使わせてくれよ! 突き指いてーんだから」

 「宗谷、今度放課後カラオケ行かね? お前のあれまた聴きたい」

 「おう任せとけ。なんなら明日の昼休みに歌ってやるよ!」


 次から次へかけられる声に答えながら、保健室へ歩みを進める。いろいろな人が俺を見るなり声をかけてきてくれる。たまに体当たりしてくるヤツがいて吹っ飛んでしまうことがあるんだけど、愛が重いなぁと少し嬉しくなってしまうのだ。


 「失礼しまーす。氷返しに来ましたー」


 誰もいない部屋に声をかけてみても、当然のごとく何も反応がない。ドアのところに不在の札はかかってなかったのに、昼間に手当てをしてくれた先生の姿を確認することはできなかった。少し待っていたら帰ってくるだろう。そう考えて手近にあったソファに腰掛ける。ふかふかのそれに身体が沈み込み、泥の中にいるような気持ちだった。体育ではしゃいだせいで、眠気が誘われる。


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