花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 俺の右肩をトントン、と控えめに叩く栗ちゃん。顔が妙にキマっていて腹が立った。


 「あの、栗原くん、だったよね。葵くんってまだかな?」


 おそらく、栗ちゃんが出せる限界の裏声だったんだろう。カッスカスだったけれど。


 「天使だと思ったよ。ふわふわのブラウンの髪に、大きな濡れた瞳、桃色の小さい唇がオレの名前を呼んだ時、まだ見ぬ推しのことなんてどうでもよくなった。走馬灯かと思って自分の頬を叩いたね。そしたら心配してもらったよ」


 心底どうでもいい話だった。とろけた目をして何を言っているんだか。

 俺が栗ちゃんの話を聞いている間にも、後ろのざわめきは止まない。むしろどんどん大きくなっている気さえする。


 「西さん、体調悪かったんかな?」

 「まぁ、そんなところ」

 「なに、葵、なんか知ってる感じ?」

 「うるせぇ」


 ニヤニヤと整った顔が穴が開くほどこっちを見てくる。西さんといい栗ちゃんといい、なんで俺の周りにはこんなにも美形が揃うんだ。ちょっぴり心臓に悪い。


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