花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「西さん、ほんとに来られたんだね」
「言ったじゃん、来るから待っててねって。約束破られたけど」
「西さんが早すぎるんだよ」
いつもよりゆるりと大きなウェーブを作った髪がふわりとかおる。背中はきっちりと隠れていて、怪しまれるような隙ひとつない。
「あとで数学のノート見せてほしいな。頭、いいんでしょ?」
「あぁ、まぁ……貸してもいいけど……字、汚いよ?」
「そんな気してた」
にーっと笑って、彼女は自分の席に帰っていく。あたりの視線を全て集めてしまっている気がする。視線、いたい。
「そういうことね。なら先に言えよ。めっちゃ見せつけてくるじゃん」
机に肘をついた栗ちゃんがジトっとした目でこっちを見てくる。
「はぁ? なんだよ」
「付き合ってんだろ?」
「はっ、はぁぁぁぁ!? つ……っき、あって、なんかない!!」
「はいはい。授業始まんぞー」
言い返す間もなく、栗ちゃんが机に向き直った。数学の授業が始まって10分くらい経ってから、その背中はきれいに弧を描いてしまったけれど。
その時間、これまでの授業の板書ノートを少しだけわかりやすくまとめ直したことは、西さんには隠しておこう。