花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
いつも西さんが笑いかけるのは俺にだけだった。
たくさんの人に囲まれて笑っている西さん、栗ちゃんや他の人からわかりやすく好意を向けられる西さん、ちょっとだけ余所行きの顔をする西さん。
どの西さんも魅力的だったけど、やっぱりいつもの放課後ここで話しているときの西さんが一番きれいだ。
その魅力を、誰かに知られるのはやだな。
「はい、華香ちゃん。これ今日取れたお花。あげるね」
「ありがとうございます」
ごそごそと西さんが服を着る音がする。このまま頭を下げていたら寝てしまいそうだったから、ちょうどよかった。小さめの洗面器を抱えた西さんは、ボタンこそたくさん開いていたけど、一応ちゃんと服を着ていた。
「最近、お花の種類がちょっとずつ増えてる気がする……どこに種あるんだろ……」
自分の背中に手をまわし、優しく撫でる。不安そうな顔で、西さんが洗面器の中を覗きこむ。そこには今の季節に咲く色とりどりの花が入っていた。
「ちょっと見せてもらっていい?」
人を肥やしにして咲く花だからなのか、洗面器の中の花は普通のものより一回りほど大きいものが多かった。
赤、白、黄色、紫。
様々な色があるけれど、中でも特に気になったのは、やたらとポピーの花が多いことだった。
「どうしたの? 何か面白いものでもみつけた?」
「ううん、なんでもない。不思議だよね、こんなキレイな花が体に咲くのって」
西さんの病気について、俺が知ることはほとんどない。いつから花が咲き始めたのかとか、どういうときに症状が悪化するのか、とか。最初より仲良くなった今でも、訊きたくても訊けないことが多すぎる。
断定することはできないけど。
本当に、偶然かもしれないけれど。
ポピーの花言葉は、「恋の予感」
まさかね。
そんなこと、あるはずない。