花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「……、」
また、ふわり。
その香りがすると、嫌でも目が覚める。
部屋を見渡してみても、どこにも芳香剤らしきものは置いていない。
いや、芳香剤にしてはやけに香りがリアルだ。
「どこかにあるはずなんだよなぁ……」
断続的に香りが舞う。ふわり、ふわり。ぶわり。
ふたつだけあるベッドのうちひとつ。立ち止まると、これまでの比にならないくらい強い香りが俺の身を包んだ。あの香りは、ここから放たれていたんだ。
──シャッ、
軽い気持ちでクリーム色の遮光カーテンを開ける。
「あ、あ、あ……のっ!!! ごめんなさい!!!!」
慌てて閉めた。
嘘だろ嘘だろ嘘だろ。
一瞬だけだけど、視界に入ったのは、目をこすりながらベッドから上体を起こした、上半身裸の、女の子。たしか、……西さん。
「ごめんねぇ葵くん。今起きたばかりで。別に私怒ってないから」
カーテンの向こう側からよく通る女の子の声がする。
「ごっ、ごめん……あの、隣に、誰、か、いる……の?」
誰もいなかったはず、っていうことは西さんは、
「ぷっ……ははっ、ははははっ!」
もうカーテンが閉じられているにも関わらず手のひらで目を隠し続けている俺をバカにするかのように、高らかに笑い声が響き渡った。その笑いは止むことなく、どれくらいだろう、俺の顔の熱が引くまで続いた。