花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
アマリリス:輝くばかりの美しさ
ゴールデンウィークをかなり前に済ませて、まだ暦上は春のはずなのに、もうアスファルト上にカゲロウを確認できるほどの暑さが俺たちを襲っている。
去年はギリギリまでクーラーをつけることを渋った学校側も、今年は命の危険を感じたのか、早々に適正温度内での使用を許可した。
朝の教室には汗と制汗剤のにおいが充満していて、とても快適とは言えない。しかもつけ始めたばかりのクーラーからは少しだけカビくさいじめっとした空気が流れてくる。
地獄だろ、こんなの。
「栗ちゃん、なんか涼しい話してくれよ」
「今日の朝、西さんが告白されてたぞ」
心臓が不自然なくらい大きく跳ね上がる。
涼しくなるどころか、背筋が凍った。
「ちょっと待てよ。誰が? どこで?」
「誰もいないこの教室で、隣のクラスの奴に」
今日は教室3番乗りでさぁ、何か声がするなと思ったら『好きです……今好きな人がいないなら、おれと付き合ってくれませんか』って聞こえてきてさ。まぁそのあとばっさり振られてたけど。
栗ちゃんの話を聞きながら後ろを見る。
西さんの取り巻きは昨日より少しだけ減っていた。栗ちゃんの言う通りに、朝に告白されたのだとして、愛想よくクラスメイトと話し、笑顔を絶やさない彼女は、その名残を全く見せない、いつもの完璧な西さんだった。