花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「あのっ、ありがとう……! 来てもらえると思わなくて……」
待ち合わせに指定された場所にいたのは、黒髪でストレートボブカット、華奢な体に、指定の長さよりほんの少しだけ短く折られたスカートの女の子。よくあると言ったら失礼なのかもしれないけれど、印象には残りにくいタイプの人かもしれない。
1学年の人数が400人を超えるこの学校で、同級生全員の顔を把握するなんてことはほぼ不可能に等しい。俺には目の前にいる女の子と話した記憶、見かけた記憶すら一切ない。
「さすがにね。無視するわけにはいかないでしょ。……どこで俺のこと知ったの?」
「友だちから。2組にいる宗谷くんがすごくいい人だって聞いて、たまたまそのとき、宗谷くんが前から歩いてきたんだ……。本当にいい人だったし、面白い人だろうなって思ったし、明るい人なんだろうなって」
こんなに他者から見た自分の話を聞かされることなんてそうそうないだろう。しかも全く話したことのない人から。
彼女の話はまだ続く。
「あの、それで、なんだけど。わたし、宗谷くんのことが好きで……っ、話したこともないくせに何言ってんだって思うかもしれないけど、それはまたあとから知っていけばいいと思うし、だからその、付き合ってほしくて……」
最後になるにつれて小さくなっていく言葉。
きっと、すごく緊張しているんだろう。
人生で片手で数えられるほどしか受けたことのない告白。
なのに。
恐ろしいほどに、何も感情が揺れなかった。