花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 「葵くん、なんかえっちなこと想像しちゃったの?」

 「ぅ、え、……いや、その……うん」


 そんな漫画みたいなことあってたまるかと必死に思ったけれど、保健室で上半身裸と言われれば、しかもすごくダルそうな雰囲気を醸し出されてしまえば、もう行きつく答えはそれしかないじゃんか。西さんはあの時の僕の表情を思い出したかのようにくつくつと喉で笑った。


 「ざーんねん。あいにく今の私にはそんなことをする相手もいないし、高校生の間は誰かと関係を持つ気もありません」


 シャッとカーテンが開く。恐る恐る目を開くと、さっきまでとは違って、西さんは制服のシャツを着ていた。リボンタイはせず、ボタンも2つ開けている。指導部の先生の目に留まれば即注意を受けてしまうような恰好だ。

 ただ、はっきりとした目鼻立ち、ゆるりとカーブを巻いたふわふわのブラウン、生気のない白い肌、それらが合わさって、まるで、目の前で動いているのは人形なのではないかと思えるほど、彼女という存在は現実味を帯びていなかった。


 「西さん、ここしばらく教室に来てないけど、どしたの? 体調でも悪い?」


 実は、彼女は俺と同じ2年2組である。俺と彼女が全くの初対面だったなら、そして彼女が優しい人でなければ、俺は今頃先生に連行され、指導室で反省文を書かされていたところだろう。最悪の場合、警察に突き出される、なんてことも起こったかもしれない。

 西華香(にし はなか)。それが彼女の名前である。同じクラスではあるけれど、俺たち2年、それどころか、2組の生徒だって、そのほとんどが2年に上がってから彼女の姿を見ていない。ある日を境に、突然来なくなったのだ。いつも教室の一番後ろの席は空いていて、西さんに関するいくつもの噂が出回っていた。


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