花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「うわぁぁぁぁぁ! すげぇぇぇ!! 海だ!!!」
「ちょっと葵くん、はしゃぎすぎだよ」
「だって、俺、海見たのなんか久しぶりでさぁ。何年振りだろ」
「はいはい。水分補給しようね」
眼前にはどこまでも広がる海。透き通った青さとか真っ白な浜辺とかはないけれど、このスケールの大きさはいつ見ても俺のテンションをマックスまで上げてくる。
ひとり大きな岩に座って、自前の水筒を傾けて水分補給する西さん。ちらりと目を遣ると、いたずらな笑顔を浮かべて「いる?」と水筒を差し出してきた。
「自分の、持ってる」
「もしかして間接キス、とか考えた?」
「うるさいなぁもう」
紅くなっていく顔を隠すように、ぐびりとお茶を飲む。夏は麦茶一択だ。
「西さん、海に来て何したかったの?」
ここは夏になるとたくさんの遊泳客でごった返す、俺たちの地元で唯一の海水浴場だった。暑いとはいえまだ海開きはされていないから人はいないし、そもそも西さんは泳げない。プラプラと足を頼りなく揺らして、彼女は遠くを見つめている。
「……髪をね、結びたかったんだ」
ぽつりとつぶやく。
重く垂らされたブラウンの髪。今日もそれにはきれいなウェーブがかかっていて、何かのCMに出てきてもおかしくないくらい美しかったけれど。
「誰もいないところまで来たら、髪を結べるでしょ」