花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く


 そういえばそんなこともあったっけか。俺にとっては、もう過去のことになってしまっていた。別にあの子の気持ちを無下にするつもりは一切ない。あの子のことはイマイチ知らなかったけれど、いい人だって言ってもらえたのはすごくうれしかったし、好きだって言ってもらえることはとても幸せだった。

 でも、俺は、あんなふうに神格化されて尊敬の対象にされることは望んでない。


 「教室に行き始めたのも、私だけが知らない教室での葵くんを知りたかったからなのに……いざ教室で他の人と話してる葵くんを見たら、なんか寂しくなっちゃって」


 ばかみたい、とこぼす。

 俺が西さんを教室に来る理由になれていたことはとてもうれしい。

 西さんが寂しくなったのは、きっと本人も気付いていない小さな独占欲、みたいなもののせいかな。

 そうならもっと嬉しい。


 「……でも、西さんも告白されたんでしょ」


 自分で深読みして少し照れてしまったお返しに、俺も気になっていたことをぶつける。彼女の目が大きく見開かれ、口がはくはくとしている。


 「誰から聞いたの?」

 「栗ちゃん」

 「あー、バレてたのか」


 誰も聞いてないと思ってたのに、と彼女が口を尖らせる。

 学校にいる限り、誰もいない空間なんてものはほとんど無いに等しい。恋愛に関することは特に噂として回るのが早いから、もしかしたら他の人もすでに知ってるかもしれない。


 「俺だって、あれ聞いた時、すごく嫌だった」

 「なんで嫌だったってこと、言ってくれなかったの」

 「その時は、わかんなかったから」

 「今はわかるんだ?」


 ほら、また俺を試してくる。


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