花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 回りくどいやり方でしか、俺たちは互いに踏み込めない。これが、『友だち』に抱いていい感情じゃないことをわかってるから。先に進みたいなら殻を破るしかない。


 「今はわかる。俺、西さんが好き」


 そういうと、西さんはにやりと笑って口を開いた。


 「やっと言ったね」


 これは最初からゲームだったのかもしれない。どちらが先に告白するか。


 意外と耐え性ないんだな、俺って。


 まだ早いって思ってたのに、西さんに見つめられると閉じ込めていた想いを全部ぶちまけてしまいそうになる。


 「華香」

 「へ?」


 「華香って呼んで。私は葵くんって呼んでるのに、いつまでも名字で呼ばれるは嫌だ」

 「そんなこと急に言われても……」


 口の中でもごもごと言葉を転がしてみる。


 はなか、はなか、はなか。


 「華香、」

 「あはは、違和感すごーい」


 せっかく人が勇気を出して名前を呼んだっていうのに、何だよそのリアクション。西さんは手で口を覆って、おなかを抱えて、いつまでもケラケラ笑っている。


 「葵くん」


 何かを確かめるように、ゆっくり、はっきりとした音で名前を呼ばれた。その先の言葉を期待しても、彼女の口からは何も出てこない。



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