花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
色々言いたいことはあるけれど、とりあえず立ち上がって彼女を俺の席に座らせる。
「え、なになに? レディを座らせてくれるなんて優しいじゃん」
「違う。ちょっと待ってて」
大きくため息をついて、今日の日直の片割れがいる席まで早歩きで進んでいく。
購買のパンを齧りながらスマホを触っていた彼は、俺を見て驚いたように目を真ん丸にさせた。あまりに目を見開いているものだから、目ん玉が飛び出そうになっている。
「宗谷、なに? 腹減ってんの?」
俺のパンはやんねーけど、と彼は言う。
それだけ驚いた顔しておいて思いつくことそれしかねーのかよ。
丸坊主の野球部員。明るい性格で、まぁいわゆるパリピ系だ。誰にでも分け隔てなく優しくて、学年男女問わず友だちが多い。
「俺と西さんのこと、誰から聞いた?」
「あー、っと。……聞いたっていうか、察した」
少しの間目が泳いだ後、首をかしげながら彼は言う。
「たぶん、だけど。違ってたら、悪い」
「いや、合ってる」
恐ろしく勘のいい奴だ、と思ったけれど、違うな、西さんの態度がわかりやすすぎるんだ。おそらくこいつ以外にも何となく気づいてる人はたくさんいるだろう。
「他の人には言わないでくれよな」
「おう。わかってるって」
なんていいヤツなんだこいつは。きらりと覗いた白い歯がまぶしかった。
まぁ俺たちの話が広がるのも時間の問題だろう。ただ、広がるとちょっと厄介なことになるから防げるところにはあらかじめ薬を打っておくのに越したことはない。