花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
俺と西さんが出会ったのは、高校に入学してすぐ、1年の春だった。
家のメンツを潰さないために偏差値の高い公立高校に入学するよう言われてこの学校を選んだ。高校受験のときは死ぬかと思ったけれど、なんとか受かったあの時の安堵は今でも鮮明に覚えている。
同じクラスに中学の時の同級生は数えるほどしかいなかった。けれど、寂しさに包まれていた期間は割と短かった。
周りの席の人にバンバン話しかけて、「明るいクラスのムードメーカー・宗谷 葵」の名を得たのはすぐだった。
俺自身、別に人気者になりたくて話しかけていたわけじゃない。ただ、ただ本当に寂しかっただけ。
家では居場所なんてないし、学校で誰かに認識してもらわないと、俺って何だろうと夜にグルグル考えて眠れなくなってしまうことは、これまでの経験上よく知っていたからだ。
『なぁ宗谷、明日いつもの奴らで駅前のゲーセンで遊ぶんだけど、お前も来る?』
『あー、俺ちょっと無理だわ。今マジで金欠……。お金使わない遊びならできるぜ!』
『マジ? 俺も今月小遣いやべーんだよな……今度グラウンドでサッカーでもするか』
『おう! いつでも予定空けてるから絶対声かけてな!』
我ながら上手くやっていたと思う。
お金を使って遊ぶ、ましてやゲームセンターに行っていたなんてことが祖母に知れたら、どうなるか。考えるだけでも恐ろしかった。
友人に恵まれていたということも大いにあったと思う。
無理強いをしてこない人ばかりだった。というか、そういう人たちと仲良くできるように頑張った。自分が上手くいきていくために必要なことだったから。
でも、ある時、ちょっと疲れてしまったのだ。
学校では軽い気持ちで友だちと遊ぶことができない、家に帰ったら俺の存在を認識して話してくれるのは妹しかいない。
息が詰まって、ちょっと疲れた俺は、放課後に中庭のベンチで寝てしまったのだ。