花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「今日も特に変わったことはなかった?」
「はい。特には。調子いいですし、最初みたいな痛みもありません」
養護の先生に尋ねられてハキハキと答える西さん。先生は西さんの体調を細かくチェックして書き込む。
「大変だね」
「大変だけど、最近治りかけてるかもしれないって思い始めてさ。散る花が多くなってきたの」
ちょっとうれしい、と言ってくしゃりと笑う。
最近表情が明るくなってきたのは病状が良くなってきたからなのか。
教室に来るようになって孤独感が少しだけ緩和されたのだろう。何がきっかけで悪化するのかはわからないけれど、精神を病んでしまっては、どんな病気でもつらくなるのは明らかだ。
「葵くんは、大丈夫なの?」
やっぱり、隠しきれてないのかな。
今朝も学校を出るとき、少しだけ家の中の空気がおかしかった。
例えば母さんに目を合わせてもらえなかったり、父さんにやたらと優しくされたり、ひまりが目を腫らしていたり。
それで何も思わないほど鈍感じゃないし、強くもない。
「なんもないよ。ちょっと勉強しすぎて疲れちゃってるだけ」
大事な時に人に頼れない自分は、恐らく一生このままだろう。下手に頼って愛想をつかされることが、何よりも怖い。
「ちょっとテスト範囲多いもんね。私もわからないとこが多くて大変だ……」
「俺で力になれるならいつでも頼ってね! できる範囲で、だけど」
「最終手段としてとっておくよ。ありがとね」
自分は頼れないくせに、ひとには頼って欲しがる。
大好きな彼女を騙しているようで、その目をしっかりと見ることができなかった。