花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
俺たちは今、保健室の隅で埃を被っていたひとつの机を綺麗にして、そこにテキストを広げ勉強している。埃で真っ白になっていた机は息がしずらそうで、机を拭いた布巾は真っ黒になった。
ふたりでひとつの机を使うのは少し無理があるようにも思える。
かなり古い机のようで、消しゴムをかけるたびにギシギシと軋む。
「ちょっと、葵くん。揺らさないでよ」
「そっちだって、さっきからめっちゃ揺れてるんだけど。もうちょっと大人しく字書けないわけ?」
「無理だよ。私は生まれてから今に至るまでずっとこのペンの持ち方と書き方をしてきたの。それを変えるなんて私の人生を否定してるに等しい」
「俺も消しゴムを持つと人格が変わるんだ。だからごめんね」
一瞬の静寂が訪れる。
「葵くん、さっきの言い訳はあまり上手くなかったね」
「うん。俺もそう思った」
要はヒマなのだ。俺たちふたりとも。
俺は、あとは先生というゲームマスターがおかしな問題を作っていないことを祈ることしかできないくらいまでには仕上げられたし、西さんも教室に来ていなかった分、先生としっかり勉強できていたから特に困っているところはないそうだ。
英単語に数学の公式、有名な化学反応式に漢字。それくらいしか見直すところがない。
何をしようか。