花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 「栗原くんでも見に行く?」


 保健室には俺たちふたりしかいない。養護の先生は会議があるらしく、少しの間留守にすると言っていた。まぁつまりは保健室の守をしておけということだ。


 「先生帰ってくるまで待ってようよ」

 「なぁんかその言い方ちょっとえっち」


 特に深い意味はなかったのだけれど。西さんが完全に俺をおちょくるモードに入ったのがわかった。だって、目が笑ってるんだもん。


 「なに、西さんはえっちなことをご所望で?」

 「そりゃあ、年頃の男女が保健室でふたりっきりってなったら、することはひとつでしょ」


 何を言い出すか。

 俺たちはキスはおろか、まだ手だって繋いでない。

 今どきの高校生とは思えないほど健全なお付き合いをしている。


 「バカなこと言わないでくださいー」

 「つれないなぁ。ちょっとくらい手を出してくれてもいいんじゃないの?」


 まさか彼女がこんなことを思っていたとは。何回も手を繋ごうとしたことはあったけれど、未遂に終わっている。

 えぇそうです、俺がビビったんです。


 「そんなこと言うなら西さんの方からきたらどうなの」

 「えぇぇぇぇ……乙女にがっつけと……? なんという男の子なの……」


 よよよ、と目を覆って泣いたふりをする。手のひらの隙間からちらっと俺のことを見つめてくるのが何とも言えないくらいあざとい。それすらも可愛いと思ってしまう俺がいる。全部西さんの思うつぼになっているのが何となく悔しい。


 「今の時代男も女もないよ。俺だってかっこよく守られたい」

 「壁ドンとかされたい?」

 「あれはダメだね。一回栗ちゃんにされたけど圧迫感がヤバかった。マジ近寄ってくんなって感じ……」

 「それは相手が栗原くんだったからじゃない?」

 「女子ならああいうのに言い寄られたいんじゃないの? 恋愛小説とかでも出てくるのは高身長のイケメンばっかじゃん」

 「私の好みじゃないなぁ。私は葵くんみたいに少し線が細くて可愛らしい感じの男の子が好き」


 調子が出てくるとこっぱずかしいことを堂々というところを何とかしてもらいたい。顔がどんどん熱を持ってきて耐えられなくなる。


 「ゆでだこみたい。かわいいねぇ」

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