花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「かわいいかわいい言うな!」
俺たちふたりとも、試験前で少しおかしくなってるのかも。普段ならこんな恋愛話に花が咲くなんてことはないし、西さんが俺を褒めちぎってくることもない。
顔だけじゃ飽き足らず、彼女の言葉は俺の耳までも紅く染めていく。
「ねぇ葵くん、ちょっと立ってくれる?」
机の上にペンを置いた西さんにそう言われ、大人しく立ち上がる。
「いきなりだな……これでいい?」
「そうそう。そのままでいてね。絶対動かないで」
念を押され、直立不動を保つ。何の意図があるのかはわからないけれど、とりあえず。俺に立てと命じた西さん本人は俺を見つめたまま動かない。
「……なに」
「うーん、ちょっとイメージトレーニング中」
イメージトレーニング? なにを。
「よし」
からだに負担をかけないようそっと立ち上がり、俺の隣へやってきた。
俺の真後ろにあった椅子を退けて、西さんの方を向くように言われる。
「ちょっ……ん、」
ネクタイを引かれ、突然のことに止まれなかった俺は、そのまま西さんの唇に自分のものを重ねてしまった。いや、奪われたといったほうが的確かもしれない。
互いの唇をふれあわせるだけの、優しいキス。
紛れもない、俺のファーストキスだった。
「どう? 女の子に強引に迫られる気分は」
「かなり恥ずかしい」
この間、ドSな男の子に迫られるお話を西さんに借りたことを思い出した。主人公の女の子はこんな気持ちだったのか。
俺の唇の上で西さんが話すたび、彼女の吐息がかかってくすぐったい。
「葵くんの唇、やわらかいね」
人差し指で唇をなぞられれば、ぞわぞわとした感覚が背筋を走った。