花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 「西さんのもやわらかかったよ。マシュマロみたい」

 「そういうのいいから。恥ずかしいし」


 ふたりでクスクス笑いあう。

 まさか初めてのキスを学校で、しかも保健室でするとは思ってなかったし、西さんからしてもらえるとも思ってなかった。心臓がバクバク暴れてしかたない。

 首に腕が回されて、西さんが俺との距離を詰めてくる。俺の胸と西さんの胸がぴったりくっついたとき、最高に満たされている感じがした。


 「たまには、こういうのもいいんじゃない?」


 西さんの背中には触れないから、俺は遠慮がちに彼女の腰に手を回す。

 背伸びをした西さんが俺の頬に自身の滑らかな頬を摺り寄せてきた。彼女の髪からふわりと香ってくる品の良い控えめな香りが俺の鼻腔をくすぐる。


 「西さん、ちょっと冷えてるね」

 「そう? 葵くんはあついけど」


 当たり前だ。今の季節は夏。外を見れば、容赦なく照り付ける太陽の光で植物が痛そうだ。今だって冷房を付けていなかったら、こうしてふたりでくっつくことなんて到底かなわない。


 「女の子よりも男の方が筋肉量が多いからあついんだってさ。この間うちのクラスでももめてたでしょ。女子は寒いって言ってたのに男子は暑いって言って大規模席替えがあったの。覚えてる?」

 「覚えてる。私もちょっと寒かった」

 「俺は暑かったんだけどなぁ」


 クーラーは教室の天井ど真ん中についている。4か所の送風口があるラインの人はクーラーの風を直に浴びることになるせいで、少し冷えるのだ。

 ひとりひとりの意見を取り入れる形で席替えが行われたが、栗ちゃんと俺は結局席が変わることなく未だに前後で仲良くしている。


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