花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
 「なんかさぁ、」


 俺が席替えの日のことを思い出していると、西さんが口を開いた。回した右手で、俺の右側の頬骨から首にかけてをさすってくるその手付きが妙に艶めかしい。


 「明日からテストだってのに、私たちバカみたいだね」


 そう、ほんとにバカみたいだ。

 この部屋の外には、先生不在の札がかかっているけれど鍵はかかっていない。

 いつ誰が入ってきてもおかしくない状況で、何をしてるんだか。


 「最初は、ちょーっとだけ葵くんに触れたらいいなぁって思ってたんだけどねぇ、だんだん欲が出てきて……いまは、このまま私のからだの中に葵くんのこと取り込めないかなぁって思ってるところ」

 「こわいこと言わないでよ」


 心なしか、彼女の声がとろんとしてきたような気がする。最初は頑張っていた背伸びも今は止めて、西さんの頭はちょうど俺の鎖骨あたりにぽすんと収まりよく預けられている。

 俺の背が少しばかり低いせいで、俺の広い胸に飛び込んでおいて的なことをできないのが悔しい。背は今からとやかく言って伸びるものでもない。大人しく諦めよう。


 「西さん、寝ないでよね」

 「うん。今がんばって耐えてるんだよぉー」


 放っておいたら眠ってしまいそうな危うさがある。

 彼女がごしごしと俺の服に顔をこすりつけたとき、弾みで少しだけ背中が見えてしまった。
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