花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「そこに座りなさい」
祖母の前に一枚の座布団が敷いてある。おそらく、そこに座れということなのだろう。もう一度失礼しますと言い、それほど厚さのないそこへ体を落ち着かせた。
冷たい、色のない視線が俺を貫く。
目を逸らしてしまいたかったけれど、竦む瞳に鞭を打ってふたつの黒から目を離さないように努める。
「お前に言いたいことがあります」
「はい、」
唐突に告げられた開始の合図。
俺の返事に被せるように、祖母の強い調子の言葉が放たれる。
「いい加減、自分の立場というものを理解しなさい」
自分の立場。
先を聞かなくてもわかる。祖母は俺のことを心底嫌っている。ついにその我慢の限界がやってきて直接文句を言いに来たのだろう。
「成績は維持しているようですが、それだけで宗谷家の面子を保てていると考えているのですか?」
「いえ、自分にはまだまだ至らないところが多くあり、宗谷の名を背負っているという自覚が欠如していたこともあったという自覚はあります」
「欠如していたこともあった……ですか」
不満そうに俺の言葉が反芻された。息を吸うと、肺いっぱいに重苦しい空気が流れ込んでくる。鉛よりも重いそれは、酸素に混ざって体中を巡る。
「あなたの母から聞きました。学校で随分とやんちゃなことをしているようですね」
「例えば、をお聞きしてもよろしいですか」
「あら、心当たりはないの」
それほど不味いことはした覚えはないのだけれど。