花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
ガラガラ、とドアが開く音がして、中年女性の優しい声が耳に流れ込んでくる。
「あ、先生、僕です。宗谷です」
「あぁ宗谷くん。そんなところで何していたの? 誰もいなかったでしょう?」
「え、……あぁ、そうですね。ちょっと外の景色を見ていました」
誰もいなかった? なんで? 西さんがずっといたじゃないか。
先生の発言にひっかかりを覚えながら、ベッドのそばでひとり唸っていると、先生が俺のそばにきて突いた左手の人差し指を見せるように言ってきた。なぜか、咄嗟にカタクリの花は制服のポケットの中に隠してしまった。
「もうかなり色も引いてきてるわね。よかったわ、骨が折れていなくて」
「僕、きっと丈夫な体の持ち主なんです!」
そう言って氷嚢を返したあと、逃げるように保健室を出た。
先生になんでカタクリの花が落ちていたのだとか、さっきまで西さんがいたことは知らないのかとか、そういうことは一切訊けなかった。
ポケットに無理やり押し込まれたカタクリの花を取り出してみると、ぐしゃぐしゃになった花弁が、少しだけ俺の指を濡らした。