花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「ふざけた題名がついていましたね、『君と明日の景色が見てみたい』でしたか。大方女から借りた本でしょう。あなたがまた粗相をする前に恋愛も禁止しておきましょうか」
自分の中で何かが限界を迎えた。
叫びたい衝動、殴りかかりたい衝動。
どうにかしてこの怒りを外に出さないと爆発してしまう。
「ふざけているのはあなたのほうでしょう」
自分で思っていたよりも低い声が出た。
数秒前に沸騰した怒りは収まることなく俺の口から次々と飛び出していく。
「おばあさま、昔の文豪が書いたものが良いと感じられるのはなぜですか」
「時代の荒波を乗り越えてきたからに決まっているでしょう。本当にいいものしか残ることができないのですから」
「それでは、おばあさまは他人が良いと言ったものしか良いと認めないのですね。自分でモノの価値をはかることはできないでいらっしゃいますか」
「そうとは言っていないでしょう」
「おばあさまがふざけていると言った本は、いま非常にたくさんの人から高評価を得ているものなのですが……残念です」
「現代の人の感性は地に落ちています。あれほど低俗なものをなぜ好むのか私には理解ができません」
「おばあさまは、その現代の人から認められていないから現在お仕事がものすごく減っているのですね。納得です」
冷静に俺の質問に答えていた祖母がぐっと言葉を詰まらせる。
視線を上げると、顔を真っ赤にさせて震える祖母がいた。
「お前に何がわかるというのですか!! お前は私の芸術に文句を言える立場ではないでしょう!!」
部屋いっぱい、母屋中に響き渡る金切り声。
耳が痛くなるし、祖母の口の端からは白い泡を立てた唾液がこぼれていた。
異常を察知した誰かの足音が近づいてくる。
「俺のことが嫌いならそれで構いません。ただ、あなたの価値観を俺に押し付けることだけはやめてください。見苦しいです」