花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
離れのリビングについてすぐ、父さんと母さんに思いっきり抱きしめられた。
今まで生きてきてこんなに強く抱きしめられたことはなかったから、戸惑いに支配される。ふたりの様子を見ても、喜ぶような状況じゃないことは明らかだった。
「ごめんな葵、今からする話はとても辛いものになる。ただお前が今の苦しい状況から解放されることは間違いないから、よく考えてほしい」
家族4人がぴったり収まるダイニングテーブル。本来ならここは温かいものであるはずだったのに、あの祖母の指示のせいで俺たちはともに食事を摂ることすら満足にできなかった。
「あのな、葵」
父さんが意を決したように口を開く。
「葵を、養子に出せって言われてるんだ」
あまりにも突飛な話すぎて、今自分は何かものすごくリアルな悪夢を見ているのではないかと思った。
俺を? 養子に?
「父さんも母さんもひまりも、みんな葵のことが好きなんだ。大好きなんだ。でも、この家で生きていくには、それは俺たちが一緒にいて良い十分な理由にならない……。さっきのを見てわかってくれたと思うが、あの人は葵に対して異常なまでの拒絶反応を見せるんだ」
おかしいと思っていたんだ。俺があの人の前で特別悪いことをしたことはなかった。ただ少し元気なだけで、それも同学年の男子に比べればかなり大人しいものなのに。
「あの人はな、お前が小さい頃に活けた花が忘れられていないんだよ」
初めて聞く。俺は小さい頃、それこそ父さんのような華道家になりたくて、花と向き合うことも多かった。1日何時間でも花について考えることができたし、父さんに教えてもらって何回も同じテーマで花を活けた。
そうして俺は思い出す。
いつ頃からだったか、家で花を触らせてもらえなくなったのだ。
父さんに花を触らせてほしいと言っても笑ってごまかされ、花以外に興味のあるものを見つけるのに必死になった。
そうしてサッカーに出会い、毎日泥だらけになりながら練習していたら祖母にみっともないだとか品が無いだとか言われ、これまではサッカーのせいで祖母から疎まれているのだとずっと思っていた。