花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「葵がこのまま華道を続けていたら必ず自分は注目を浴びなくなる。それが怖くてあんな反応をしてしまっているんだと思う」
そんなこと、俺の知ったことじゃない。
何を言われようと俺があの人から傷つけられ続けたのは紛れもない事実だし、今更許す気なんて毛頭ない。
「だから、俺を遠ざけるために養子に出せって言ったのか」
「俺は反対したんだ。絶対嫌だって。でも、このままこの家にいたら葵に辛い思いをさせることを避けられない。葵の親戚に、とっても親切な夫婦がいるんだ。そこで暮らしてもらうことになる。幸せは保障するよ」
「俺が養子に出されるとして、ひまりはどうなるの」
「ひまりはこの家に残る」
「それじゃあひまりはずっと辛いままだろ!」
はじめて親に対してこんなにも声を荒げたかもしれない。
父さんは驚いたような顔をして、それから口をかたく閉じてしまった。
「お兄ちゃん、」
高い、まだ幼い声が俺を呼ぶ。
「知ってた? あのばあさん、かなり進んだ胃ガンなんだって」
そんなこと知らなかった。祖母の情報から遠ざけられてきた俺が知るはずもない。
「だからね、大丈夫だよ。いつかはいなくなる人だから。少しの間、それくらい我慢できる」