研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
この空き家はイリアの父ロットが各地に置いた別荘の一つ。イリアがこの家の管理を任されており、イリアの研究の拠点も主にこの場所で行っている。
空き家ということもあり、一度空き巣に入られた経験はある。しかし何かの研究で失敗したであろう、赤黒い生々しい液体が壁にこびりついていたり、妙なもの達がいくつも瓶詰めにされているのが壁にビッシリと並んでいたりと、入ってきた空き巣は悲鳴を上げて出ていって以来、この場所は巷では幽霊屋敷とまで呼ばれていたりもする。
だが研究に没頭でき且つ誰にも邪魔されない自由なこの空間がイリアには楽園に思えて、家の外観をじっくり眺めた後、生い茂る草の中で横になった。見えるのは木々の隙間からゆっくりと流れる雲だけ。何にも邪魔されない空間がそこにはあった。
ーー朝起きた時から風が気持ちいいと思っていたけれど、ここはやっぱり特別ね。
屋敷の中ではこんなことは絶対にできない贅沢なことに満足しながら腹の虫が動き出したことに気づき、ゆっくりと起き上がって買ったばかりの出来たてふわふわのパンに齧り付く。
そして鞄の中に詰めてきた荷物の中から、一冊の本と一冊の手帳を取り出した。
「さて……お父様、お母様。今日も私は二人を越えるために知識を身につけるからね」
古ぼけた一冊の本は、年季が入っていて表紙は今にも取れそうな程何回も何回も読まれた形跡が残っていた。この本は、ロットが積み重ねてきた研究をまとめた、世には出回っていない貴重な本なのだ。ロット独自の思考から問いただしたものであったり、まだまだ答えを導くのは程遠いものまでこの一冊には書かれていた。
そしてもう一冊の小さな手帳は、王宮薬剤師だった母エヴィリアが書き記した薬草の図鑑。すんと鼻先で手帳を嗅げば、薬草独特の匂いが手帳にこびり付いている。これも世には出回っていないイリアの宝物の一つだ。