研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
メモを持つ手が微かに震えているのは、緊張からかそれとも喜びか。
はっきりとした感情が浮かび上がらないのはこの空間のせいなのかと、イリアは呼吸することすらも忘れてしまいそうになる。
「イリア、大丈夫か」
様子のおかしいイリアの肩を抱きしめるヒューリの体温がじんわりと伝わってきて、止まった思考回路がネジを巻いて動き出す。
「少し興奮しただけ。大丈夫よ」
安心させるように微笑んで見せるが全てを見透かすような真っ直ぐな瞳に、顔の筋肉が言うことを聞かず無理に浮かべた笑顔はすぐに消えた。
遠くでヴァイル達の鳴き声が聞こえてきて、ここから離れるようにと促された。
「行こう。ここは少し魔力が強すぎる」
「ええ……」
ヒューリに支えて貰うようにして遺跡から離れると、暗闇の中に消えていくその場所が小さく吠えたような気がした。
出口に向かって真っ直ぐ伸びた道を足を滑らせないようにして歩き切ると、いつもの見慣れたクリスタルの明かりが包み込んだ。
主人達を待ちわびたヴァイル達が翼をはためかせて、喜びを示す。
本来ならこの光景すらも非日常的で御伽噺の中でしか見れない光景だというのに、気づけば安心する光景へと変わっていた。