研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
ハンナとはこの会場では挨拶を交わすのみで、忙しそうに他の貴族の子息、令嬢に兄のトベラートと共に周り歩いていて、緊張したその表情からはとても会話出来そうな雰囲気はなかった。
そして何よりアゼッタをこの場に連れて来れなかったことを、後悔していた。
ーーダンスの基礎は完璧に叩き込んで貰ったのに、肝心な舞踏会での人との接し方を知らないなんて……穴があったら入りたい。
この十八年間まともに人との交流をしてこなかったせいで、この場においてどのように声掛けをして接していいのかまるで分からない。
縁談の時は会話をする前提で挑めば、イリアは何とかなっていたと勝手に思っていたのだ。
世間一般的から見たら言葉のキャッチボールが続かないことは苦痛でしかなく、それにイリアの研究オタクスイッチが入れば彼女の口は止まることはない。
そんな彼女に令嬢としての立ち振る舞いを叩き込んだエルメナは、無駄な私語はかえって逆効果だと呆れた顔で教えこまれた。
オタク語りをするなと言われてからというもの、会話の話題は当たり障りのない季節の話題程度で口を噤んでしまう始末だ。
こんなイリアの横にアゼッタという心強い味方がいれば、イリアも前向きにこの場を楽しんでいたはずだったが、生憎アゼッタも暇ではない。
アゼッタも今夜は婚約者の家で晩餐をする予定が組み込まれていたのだ。
正式な婚約者という事もあり、両者の家族を交えての晩餐でナリダムもエリーもそちらに付きっきりだった。