研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
次に見つけた令嬢達に声を掛けようと口を開くが、またしてもそっぽを向いて近寄るなと守りを固めた。
どうやらよっぽど守りが硬いらしいが、理由は分かりきっていた。
ーーなんでこんな場に、見知らぬ人間が混じりこんでいるのか……そんな目ね。
余程馴れ合いはしたくないらしく、よくよく見れば令嬢達の中でいくつかの派閥のようなものがあった。
お互い探りを入れるような視線を向け合い、距離は一定に保ち、すれ違う異性を前にすると表情はガラリと変わる。
獲物を狙う目はどこもかしこも光っている。
令嬢達は皆、嫁ぎ先の候補を絞り出し粗方の目星を付けてこの場に挑んでいる。身分違いの恋というロマンティックなものも、ここでは生まれる可能性はゼロでないということに、望みを抱えて。
輪の中には入れないと悟ったイリアは再び壁際へと向かうと、夜風が通り抜けてくる感覚に首を動かしその場を探すと広いバルコニーが姿を表した。
逃げるようにそそくさとバルコニーへと移動すると、自然の空気がイリアの緊張した体を撫でるように流れていく。
「体は正直ね」
こんな屋敷の中でなく、自然界のゆったりとした時の流れが合っているのだと思い知る。
長年ネグルヴァルトの研究をして来たせいか、生い茂る草木の音と風が運んでくる香りがどうしても心地よく感じてしまう。