研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
嫁ぎ先が見つかったらこんな我儘も言っていられないのは承知の上ではあったが、出来れば研究できるような空間を確保してもいいと首を縦に振る異性が居ないものかと考えてしまう。
散々何かに取り憑かれているだのと馬鹿にするような言葉を投げてきたが、中にはそんな人達とは真逆な人がいるはずと淡い期待を胸に抱いているのだ。
ただ世の中甘くはないと痛感しているイリアは、期待を捨てるようにため息を吐ききった。
ーーここで少しでも誰かと交流して関係を築いておけば、後々自分がきっと有利になるはずだもの、落ち着いたらもう一度当たってみよう。
家族を安心させるため、その為に今は努力するしかないのだ。
全身に心地のよい空気を纏わせ気合いを入れ直そうとしたその時、一つの足音がイリアに近づいてきた。
「こんばんは、レディ。お一人かな?」
柔らかい声を投げられ振り返ると、目元を隠すように銀刺繍で施された仮面を被った一人の男性の姿がそこにあった。
仮面を被る、即ち身分や素性を隠すその行為はこの場において不必要とも言えるもの。ただ男性は自分の姿など気にも止めていないのか、堂々とした様子でイリアに近づいてきた。
ーーこんな人居たら目立ちそうなのに……全然気づかなかった。
どうしてこんな自分に声を掛けてきたのかと、疑念を抱きながらも目の前に距離を詰めてきた男性に失礼のないようにドレスの裾を持ち上げた。