研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
「すみません、アルロス様。こちらの野花は麻薬として取り扱われているものでもあります。これを所持していたと知られたら私の今後の未来が危うくなります。ですので受け取れません」
言ってしまったと後悔しながらも、アルロスのその仮面で隠された表情を読む。
知らずとして持ってきたであろうアルロスは血相を変えて、慌てて胸元にしまい込んだ。
「とんだご無礼を……!無知なあまり危険を相手に押し付けるような行為をしてしまったことお詫び申します!」
慌てふためくアルロスの様子を見て、闇の取引を押し付けられていたのではないかと思っていたがそれは違ったようだ。
何も知らずに浅い知識だけで手に取った様子で悪気はなにもない。
「気にしないでください。古い書物には確かに麻薬として取り扱われていると記されているものは少ないですから」
「それにしても初対面の人にこんなことをしてしまうなんて……僕は本当に駄目な人間だ」
酷く落ち込んだ様子のアルロスを宥めるように、イリアは彼に向き直る。
「そんな駄目な人間なんてことないですよ。私の緊張解こうとしていたんですよね?」
「はは……バレていましたか?」
仮面をくいっと上げて、一瞬だけ覗いたその霞んだラピスラズリ色の瞳が星空を写した。
「いつも僕は影の中で生きているような人間なんだ。誰かに比べられ、見下されるようなそんな毎日を送っている。人との接し方もよく分からないくらい、人と会うことを避けてきた。でも今日ここに足を運んだのは、そんな自分でも誰かの目に映してもらえるのかどうか……それが知りたかったんだ」
悲しみと怒りを含んだその声で己の事を語り出すアルロスの言葉を、ただ黙って聞くことしか出来ないイリアは、彼の勇気を褒めたかった。