研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
木々の間を縫ってやってきた風が通り抜け、喉まで上がってきた言葉をぐっと飲み込んだ。
ここで何かが壊れる可能性だってあることを、イリアは知らない訳では無い。
家族にもカデアトに住む人々にも笑顔が溢れる選択肢は、一つしかないのだ。
嫁ぎ先を見つけ、今後のカデアトの研究はヒューリを初めとする村の人々に託すこと。
頭で分かりきったその答えを何度も心の中で唱え、言われた好きという言葉を大事に受け止めた。
「ありがとう。これから先もこうやって笑えるようにちゃんと嫁ぎ先を見つけて、その後の研究はヒューリ達に託すことになるけど、それまでよろしくね」
「……イリア?」
「まあ、すぐに見つかるわけもないから!先の話にはなるだろうけど、研究もどんどん進めていきましょうね!」
心配はかけまいと笑顔で言い切ると、今夜はこの格好でカデアトにも行けないからこのまま帰ると伝えるとゆっくりと地面に降ろされた。
ーーまた明日、それがあるからもう少し頑張らなきゃ。
ヴァイルにも別れの挨拶を済ませて、もう一度ヒューリの前で笑って見せると彼も小さく笑う。
その笑顔を胸にイリアは自分を奮い立たせるように足を動かし、森を後にした。