研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
派手な衣装を好むわけでもないが持ってこられた衣装を前に、何故という疑問しか生まれない。
イリアの衣装もまた黒だったのだ。
葬儀が執り行われるわけでもなくお披露目会という華やかであるものに参加するというのに、黒を選択された理由が分からなかった。
ただここは普段暮らし慣れた屋敷ではない。ああだこうだと口を挟める相手はここにはいないのだ。
用意されたものに文句をつける女であると噂されたら、どんな目にあうか想像が付かない。
ーーきっと王子が黒がお好きな方なのよ。
根拠のない理由をこじつけて一人納得し、部屋にいる女性達に着替えを手伝ってもらう。
王宮の衣装となればそれなり高級なものを使用しているのだろうと少し緊張はしたものの、手触りがまるで悪い。
肌にチクチクとした刺激を与える感覚は、麻袋を頭から被ったようだった。
脱いだエリーから貰ったドレスを手離したくない気持ちが強いが、今はぐっと我慢する。
素顔を見せるのはギリギリのタイミングでという理由でヴェールを頭につけると、視界が一気にぼやけた。
身に纏うのも着飾るものも真っ黒に統一され、鏡に映し出された自分はまるで昔話に出てくるような魔女に思えた。
こんな待遇で本当に大丈夫なのかと思うが、部屋の装飾を見渡せばここが国一番の建物内だということを知らしめる。