研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
家の侍女達が丁寧に施してくれた化粧だけが、イリアを守ってくれているようでこれだけは阻止ようとしたが、化粧を付け加えるような動作はしてこなかった。
踵の低い靴に履き変えれば、全ての着替えの準備が整ったようだ。
女性が扉を開けるとここまで送り届けてくれた黒ずくめの使者が、そこに立っていた。
「では、参りましょうか」
「……はい」
エルメナに叩き込まれた令嬢としての立ち振る舞いをしようとしても、ここの空気を吸い続けているとそれも段々と出来なくなってしまう。
緊張のあまりヘマだけは絶対にしないようにしなければと、気を取り直して部屋の外に出る。
再び長い廊下を歩きながら窓の外を眺めると、太陽が雲に吸い込まれるように隠れてしまった。
ただ黙ったまま自分と使者の足音だけが響く廊下をゆっくりと歩き、もうすぐやってくるその時に気持ちを集中させる。
「……!」
ふとどこかで聞き覚えのある、透き通るその声が聞こえたような気がした。
ここに来て現実逃避をしてしまう自分に苦笑すると、大きく人のざわめきがすぐそこから聞こえてきた。
「お連れ致しました」
分厚い垂れ幕の奥に向かって声を掛けた使者は、ゆっくりと後ずさりイリアを前に進むように指示を出す。