研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
血がじっくりと柵に広がり痛みが走るが、そんな痛みは今はどうでも良かった。
今はこの人をどうにか止めなければならないという頭でいっぱいだった。
藻掻くイリアに見せつけるように胸元から取り出したのは、ネグルヴァルトに生育する植物達。
調合を変えれば違法な薬と同等の効果を生み出してしまう、取り扱いが厳重注意な植物だった。
「この薬はとても優秀に働いてくれてね。ここにいる民衆も思うがままに操ることができる素晴らしいものさ。見ろ、餓えに飢えた人間の成り果てを」
よくよく集まった民衆を見れば、目の焦点はあっておらず常に興奮し何かを叫んでいる。
「貴方……麻薬を与えてこの人たちを操ってるというの?!」
「流石、元王宮薬剤師の娘だと言うべきか。そうさ!快楽を与える薬だと知ったこの者共は自ら薬物へと手を伸ばしたのだ!薬物中毒に陥った者達はこの僕に虜さ!僕がこの国の支配者と認めているんだ!」
「今すぐに治療しないと手遅れになる!こんなことはやめて!!」
「誰に向かって指図している。この魔女めが」
地を這うような低い声が鼓膜を揺らすと、その恐怖からか体が動かなくなってしまう。抵抗しようにも何処にも逃げ場がないこの状況で為す術もない。
そうこうしている間にヒューリとヴァイルの元に、大鎌を構えた一人の大男が現れた。
二人の倒れる場所、そこは死刑台だったのだ。現れた大男の死刑執行人は、顔を黒い布で隠し大鎌を台に振り下ろした。