研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
その鞄の中にはいくつもの空の小瓶や何かが入った小さめの麻袋数個にナイフ、薬研にランタン等々、何故令嬢がこんな物を持ち歩いているのかと言われてもおかしくない物がぎっしりと鞄に詰め込まれていた。
中身を確認してから、ベッドの下に隠しておいた昼間別荘で見つけた本達を取り出して、本達も大きめの鞄の中に一緒に詰め込む。
髪を結って、お気に入りの黒リボンで縛り上げれば支度は全て整った。
「いざ、楽園へ!」
寝静まった屋敷の外に出るのは警備の配置を完璧に覚えているイリアには簡単なことで、昼間よりも人の出入りが少ないお陰でスムーズに外に出ることができた。
そこからは別荘へと足を運び、そのまま別荘の裏手に回りしばらく林の中を歩くと拓けた草原が現れる。お決まりの場所でイリアは指笛を吹くと、どこからからその足音が聞こえてくる。
「いい子ね、こっちよ!」
夜の暗闇の中でもその白き体ははっきりと見えて、近づいてきた野生馬にイリアは両手を広げた。何か特別なことをしたわけでもなく、怪我したこの野生馬を手当したのがきっかけで妙に懐いたのだ。
鞄の中から簡易的な手綱を取り出して取り付けるが、嫌な顔一つしない。
イリアを見て野生馬は嬉しそうに一つ鳴きその頭を撫でてやると、足元にある切り株を上手く使って野生馬に跨った。野生馬に走れ合図を出すと、風を切るように走り出す野生馬と共にイリアはこの自由さに深呼吸をした。上を見上げれば瞬く夜空の幾千もの星が、どこまでも続くこの空に広がっている。
イリアの求める真の自由がこの時間はどこまでも広がっていて、胸が踊った。
「聞いて、お父様がドラゴンがいるって書物に残していたのよ。本物ドラゴンを見つけたら、あなたにも会わせてあげるからね」
返事は返ってこない代わりに走る速度を上げたのが分かり、イリアは一つ小さく笑った。
ーーこんな風に私と一緒に楽しんでくれる誰かがいたらいいのに。
野生馬の首を撫でながら、ため息が零れそうになるのをイリアは堪えた。そんなため息すらつくことも忘れてしまうような時間が、これから待っているのだから。