研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。


ただなんの事かさっぱり分からないイリアにとっては、ますます混乱する一方だった。混乱と共に、やけに近いヒューリの距離に何故か心臓が跳ねる。

ーー女神って一体……?

ドキドキする心臓をどうにか抑えようと、イリアは何とか熱い視線を送るヒューリから目を逸らし、視界に映った自分の荷物の存在に気づく。どうやら、ドラゴンがイリアの荷物もしっかり運んできてくれていたらしい。

鞄の口から少しだけ顔を出しているドラゴンについて書かれた書物を見て、ヒューリに再び視線を戻した。

「初めまして、ヒューリ。私はイリア・バーリアス。ネグルヴァルトについて密かに研究している、とある貴族令嬢よ」

ヒューリの熱を落ち着かせるようにイリアは掴まれた手をそっと解き、膝の上に手を添えて頭を下げた。

「イリア、バー……なんだって?」

「イリアで大丈夫よ。あの教えて欲しいの、ここは一体どこ?」

「カデアトだ。呪われし地上から逃れた祖先がこの場所を作り上げた、俺たち人類の最後の砦の地だ」

全く知らない地名に眉をひそめながらも、イリアは質問を続けた。

「あれは本物のドラゴン?」

「偽物なんて存在しないさ。そいつは俺の相棒のヴァイル、優秀な風読みをするドラゴンなんだ。周りにも気を使ういい奴さ」

「そう……なのね」

ヴァイルと呼ばれたドラゴンに視線を移動させると、その視線に気づいたのかヴァイルがゆっくりとイリア達の元へと距離を縮める。

「翼の怪我を治してくれてありがとうって言ってる」

「いえいえ……って、あなたドラゴンの言葉が分かるの?!」

先程から何故イリアが話してもいない翼の傷の処置のことを、気を失っていたはずのヒューリが知っているのか、頭の中で突っかかっていたのだ。



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