研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
夜はあっという間にやって来て、侍女がイリアに声を掛けに来た時には既に日は地平線の彼方に沈んでいた。
随分と眠ってしまったと慌てて起き上がり、皆の待つダイニングルームへと急ぐと、そこには暖かい空気が彼女を包み込んだ。
だが家族で食事を囲みながら穏やかな空気で過ごす夕食は、中々に久々ということもあってやや緊張が走る。普段なら重たい空気ばかりで、罪悪感に浸るのはいつもの事だった。
「今日の特訓はどうだったの?」
エリーの問いに日中叩き込まれたレディとしての立ち振る舞いを発揮させるべく、軽やかに微笑んで見せた。
「基礎的なことを中心に教わりました」
「彼女は信頼のある人だから、貴女がどう変わるか私も楽しみだわ」
「頑張ってお姉様!」
「程々に頑張るんだぞ、イリア」
こんなに期待されたのは初めての事で、笑顔の裏側では何故か汗が滲む。悪い気はしないはずなのに、気持ちは落ち着かない。
「……ありがとうございます」
その一言を口にする事が今のイリアには精一杯だった。
食事を終えて感じたことの無い体のむず痒さに耐えきれなくなって、一目散に部屋へと戻る。扉を閉めて背中を預けながら、ズルズルとその場にしゃがみこんでしまう程足に上手く力が入らない。
ーーなんか、緊張した……。
胸に走る緊張感とそこに混じる小さな喜びが、浮かんでは消える。
「久々に穏やかな皆の顔を見たせいかしら」
いつもなら伯母のエリーに叱咤されて、義妹のアゼッタに迷惑をかけ、伯父のナリダムに苦笑される。
自分がぎくしゃく作成機にでもなった気分で、そんな皆の顔をなるべく見ないように目を逸らしていた。