研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
そんな皆の顔が今日は違った、穏やかで優しい顔をしていたのだ。
イリアには見慣れない光景になってしまっていたが、本来はあの穏やかさがこの家にはあったのだ。
妙な心の温かさに思わず零れた笑みと共に、体から抜けた力が湧いて出てきた。
「頑張ればもっとみんなの顔に笑顔が灯るーーならやらなきゃ」
気合いを入れ直してその場から立ち上がると、身支度を進める。侍女が部屋に来た時にはもう、されるがままのイリアは居なかった。
就寝の身支度を整え窓際に座り、優雅に本を読むその彼女の姿に、侍女は大きく目を見開いた。
「今日も一日ご苦労さま。おやすみなさい」
「お、おやすみなさいませ、イリアお嬢様」
驚きのあまり無駄に大きな動きで部屋から出ていく侍女を小さく微笑んで見送り、怪しまれないようにそっと動き出す。
ベッドの中に手を滑り込ませれば夜のイリアの必需品達が身を潜ませている。後は寝間着から動きやすい格好へと早着替えをし、髪を結えば本当の身支度は完成だ。
部屋の明かりを消して寝たフリをしながら夜が更けるのを待てば、屋敷の中はゆっくりと寝静まっていく。
窓からナリダムの部屋の明かりが消えたのを確認し、暫くしてから音を立てずに部屋から外へと抜け出した。
いつものように屋敷を抜け草原へと向かい、野生馬に乗ってネグルヴァルトへと急ぐと、相変わらず森はイリアを歓迎するように待っていた。