研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。


カデアトへと続く縦穴、ネクリアまではもう何の迷いもなく突き進み道中で見つけた薬草達を片手に、懐から昨晩ヒューリに手渡された角笛を取り出した。

ガラス細工のような細かい文様が波打つその角の欠片は、ドラゴンが成長する過程で抜け落ちたもので、角笛の音はドラゴンに寄って違う。

多様な音がある中で、ドラゴンは自分の角笛の音を聞き分けられる能力を持つことから、喚び笛として使われているという。

「これを吹けば、ヒューリ達が迎えに来てくれる……のよね?」

昨晩地上へと戻り別れ際に手渡されたのが、この角笛だった。実際に吹いてその事実を確認したわけではないせいで、半信半疑な状態のままそっと角笛に息を吹き込んだ。

吹き込んだ息は音には変換されず、ただ空気の中でもみ消されたように音色は響くことはなかった。

「もしかして、これを吹くのに練習しておかなきゃいけなかったり……?」

ようやく辿り着いたドラゴンのその研究が出来るというのに、このまま会えなくなったら昨晩の出来事は夢として終わってしまう。

慌ててもう二、三度試して角笛を吹いてみたが結果は同じ。

息を吹き込む音だけが無様にも鼓膜を揺らすだけで、音色を奏でることはできなかった。

ーー嘘……もうヒューリ達に会えないの?

角笛を握りしめ、先の見えない深い暗闇をじっと見つめた。森の明かりが辛うじて照らしてくれてはいるが、穴の底まで光は届くはずもない。

何かきっと方法があるはずだと、辺りをとりあえず散策しよつとしたその時だった。





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