研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
風を切る音と共に、大きな翼を羽ばたかせたヴァイルの姿が月夜に浮かぶ。落ちる影が彼らを型取り、地上にその姿を示した。
「待たせたな、イリア」
馴染みのある声がイリアを包み、伸ばされたその手をしっかりと掴んだ。
「ヒューリ……!」
引き寄せられるままヴァイルの背中に乗ると、嬉しそうにヴァイルが鳴いた。ヒューリに支えられるように、彼の前に跨ると心配そうな顔で顔を覗き込んできた。
「何回も吹いていたみたいだから、何か緊急事態かと思って心配したよ」
「え、音聞こえてたの?音が鳴らないからてっきりもう会えないんじゃないかって……」
「あはは。心配ご無用。その音はドラゴンにしか聞こえない音だから、吹いても人間の耳には届かない音なんだ」
ヒューリの返答に同意するようにヴァイルも翼を二度大きく羽ばたかせ、そのまま穴の奥深くへと降下していく。
流れる風が妙に心地よく、イリアはヴァイルの背中をそっと撫でた。
「迎えに来てくれて、どうもありがとう」
「キュー!」
「お前ばかりずるいぞ」
「え?」
「イリア、俺にしっかり掴まっていろよ!」
ヒューリの掛け声と共に速度を上げたヴァイルが、一気に地下深くへと降下する。叩きつけてくる風に目を開けられずにいると、ヒューリがイリアの頭を胸に抱き寄せた。
「苦しいだろうから、寄りかかって」
トン……と触れたヒューリの胸に突如耳が熱くなる現象に、困惑しながらもあまりの風の強さに寄りかかるしかないとその言葉に甘えた。
触れた温もりと耳元から聞こえてくるヒューリの鼓動に、イリアの心臓は徐々に早く脈打っていく。