研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
緊張とはまた違うこの心拍の速さは一体何なのか、今度調べてみた方が良さそうだと、ぎゅっと胸元を握りしめながら平然を保とうとした。
しかしイリアの呼吸は風圧のせいなのか、妙に息苦しさを増すばかり。ドキドキとうるさい心臓の音も相まって冷静さは中々取り戻せなかった。
そんな状況で暫く飛んで進むと空気がガラリと変わり、叩きつけてくる風はもう何処にもない。
クリスタルの輝きが燦々と瞬く広い空間、カデアトに辿り着いたのだ。
その開放感は言葉で言い表すことが出来ない程の清々しさがイリアの胸いっぱいに広がっていく。
澄んだ空気と広大なこの大地が地下にあるということが未だに信じられない気持ちもあるが、頭上で優雅に飛んでいるドラゴンの姿を見ればここは別世界であることが分かる。
そっと離れたヒューリの身体に先程まで取り戻せなかった冷静さがようやく戻ってきたことに安心すると同時にもう少し今のままで居たかったという感情が顔を出した。
ーードラゴンの研究に専念して、イリア。
余計な事を頭の隅に追いやるように首を横に振り、ここに来た目的を思い返せば、スイッチが切り替わる。
流れるようにナルとルガが待つ小屋へと辿り着くと、ヴァイルの背から地面へと降り立った。
「さてと、俺は中にいる二人に声を掛けてくるからちょっと待ってて」
ヴァイルの顎を軽く撫でてから煙が揺れる小屋へとヒューリは足を向けた。そんなヒューリを追いかけることはせず、イリアは横にいるヴァイルに声を掛けた。
「今日は貴方に手伝ってほしいことがあるの。いい?」
「キュー」
イリアは持ってきた荷物の中から薬草を取り出して、昨晩怪我をしていた翼を見せてもらう。傷はやはり綺麗に完治しており、これといった傷跡すら残っていない。