研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
この緊張感には、未だに慣れたものではない。イリアは返事をする前に深呼吸してから、扉を開けるように指示を出した。
ゆっくりと開いた扉の奥から応接間に入ってくる一人の青年の姿に、イリアは慌てることなく立ち上がり会釈して見せた。栗色の柔らかそうな髪に、垂れ目の優しそうな印象の持ち主のユインはイリアの向かいに進むと、スマートにお辞儀をして見せた。
「お初にお目にかかります、イリア嬢。ユイン・デイバートと申します。どうぞよろしく」
「初めまして、ユイン様。イリア・バーリアスと申します。本日はお越しくださり誠に感謝しております。どうぞお座り下さい」
イリアに言われるがまま、ユインはソファーに腰を下ろし少しの沈黙が流れた。そんな中、侍女が熱めの紅茶を持ってきて二人に挟まれたローテーブルの上に置いた。紅茶の湯気がゆらゆらと揺れ、イリアはその湯気を視界に入れながら話を進めるべく口を開いた。
ーー伯母様からの課題……紅茶が冷めきるまで縁談を続けろ、今日こそはやりきってみせる……!
まず初めの話題としては、普段の日常生活の話やら些細な会話から。そこから花が咲けば、深い部分の自己開示といった流れがイリアの中で出来上がってはいたが、それは単なる計画でしかない。ただその流れにまで持って行ければ、確実に紅茶が冷めきるはずだと、イリアは謎の自信を持っていた。
「ユイン様の領地ではたくさんの鉱物資源が採れるのでしょう?例えばどんなものがあるんですか?」
「ここ最近で言えば、鉄鉱石を掘り当てたという知らせが入りまして。近々発掘場を建設を視野に入れている所なんですよ」
「発掘場となれば、かなりの量の鉄鉱石が採れるのでしょうね。その鉄鉱石の使い道は一体どのようにするおつもりですの?」
「多くは軍事国家への輸出がメインになるでしょうね」
この会話では決して話題は広がらないと誰しも思うはずだったが、ユインの前に座るイリアの瞳には何故か輝きが秘めていた。その輝きは留まることなく、イリアの体を駆け巡り遂には飛び出してしまった。
「ユイン様!それは勿体なく思います!折角自由に使える資源をお金に替えて終わりというのは、その地域の発展に繋がりません!」
あまりにもいきなりな発言にユインは驚きを隠せずイリアを見つめるが、その視線さえも切り捨てるような勢いでイリアは前のめりになりながら語り出す。