研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
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アゼッタに手を引かれながら屋敷の前に停まっていた馬車に乗り込み、馬の足音を耳にしながら外の景色を眺める。
いきなりの出来事に動揺していたが、横に流れていく街並みを眺めていると自然と心の落ち着きの無さは消えていた。
ふと視線を感じて前に座るアゼッタの方へと目線を動かせば、満面の笑みを返された。
「どうかしたの?」
「お姉様とこうして城下町へお出かけなんて何年ぶりでしょうね。私、昨晩は楽しみで仕方なくて中々寝れませんでした」
「そうだったの」
血の繋がりがない妹ではあったが、ここまで好かれていると心なしか本当の妹のように思えてしまう。
元々アゼッタが持つその親しみやすさや愛くるしさが、尚更彼女をより引き立てていることをイリアは知っていた。
「それで、今日は何しに城下町へ?」
「エルメナ様が仰っていたように、女の子が好きな物に触れてもらいたいのです」
「女の子……かあ」
自分とはかけ離れすぎているその単語に苦笑していると、アゼッタはイリアが持ってきた恋愛指南書を指さした。
「私も去年にそれと同じ本を読みました。今では婚約者の方と上手くやれています。だからお姉様もきっと大丈夫です」
その言葉に励まされていることに気づき、静かに目を伏せた。
ーー本当に優しい子。
縁談を全て切り捨てられてきてその出来事の影響を直に受けてきていたのは、紛れもなくアゼッタなのだ。