研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
出来損ないの姉の悪口や変な噂が立っていれば、それなりにアゼッタが受けることもあったはずだ。エリーもそれを心配して、イリアの婚約者を早く見つけねばと焦っていたのを知っていた。
それでも彼女はイリアに何一つ文句を吐かず、こうして姉を想って協力してくれている。
ーー今回のお茶会も成功させて、婚約者の方を魅了できるような女にならなきゃ……!
熱くなる心を感じて、イリアは目をしっかりと開けてアゼッタを見つめた。
「ありがとう、アゼッタ。今日は貴女が先生よ。色々と教えてくれると助かるわ」
「……っ!はい!もちろんです!」
曇りのない宝石のような笑顔は、イリアにも伝わり自然と口角が上がった。
そのまま馬車に揺られながらたわいの無い会話が弾み始めた頃、外の景色がガラリと変わり始める。
御者が馬車の扉を開けてくれれば、そこに広がっていたのは多くの人が行き交う立派な城下町だった。
一人馬に乗って馬車の周囲を警護していた屋敷の使用人がやって来て、そこからは三人で行動する事となった。
元々この城下町は治安がかなり良く、警備体制が国の中で最も強化されていることもあり、使用人はいらないとアゼッタは声を上げたがそれは大人達に断固拒否されたらしい。
「お姉様と二人きりで女子会を楽しみたかったのに」
「すみません、アゼッタお嬢様。ナリダム様の意見には逆らえません故」
「何かあってからでは遅いから、今回は我慢してねアゼッタ」
「いつか絶対二人で満喫しに来ましょうね!!」
妙に闘志を燃やすアゼッタに、笑って誤魔化すことしかできないイリアはとりあず見えた店に話題を逸らす作戦へと動いた。