研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
「あれは……何かしら」
色とりどりの塗料で彩られた看板を見上げると、アゼッタが誇らしい顔をイリアに見せつけてきた。
「お姉様、あちらの店は有名な菓子職人がいて、この国の中で人気の高いお菓子屋の一つです。お茶会でも度々出てくることが多くて、皆いつも幸せそうに食べております」
「お茶会でも出てくるのね」
「いいですか、お姉様。女子は甘いものにはすごーく敏感なんです。新しいお菓子に常に知っておくと、お茶会の時に盛り上がりますよ」
「そうなの?!」
思わず大きな声を出してしまったと慌てて、口元に手を添えるが隣で歩くアゼッタにはクスクスと笑われてしまった。
「せっかく城下町に遊びに来たんですもの。色々見て回りましょう!」
腕を組まれたかと思えばアゼッタは何の迷いもなく賑わう人の流れに混じるように、イリアを連れて歩き出す。
新鮮な野菜や果物が並ぶ露天商もあれば、列を作っている有名な菓子店やパン屋、貴族御用達の宝石店などなど様々な物が溢れ返っていた。
森の研究以外ほとんど屋敷の外には出ないイリアにとって、街というものは非日常的な空間だった。
道行く人達の年齢層は様々ではあるが、皆の顔には自然と笑顔が宿っている。
ーー街の交易が栄えている何よりの証拠ね。
ナリダムを含む各地の領主及び国王が懸命に知恵を絞って、よりよい国を作り上げているお陰で何不自由無い生活が送れていることに、関心と感謝の気持ちが湧き上がってきた。
いつかどこかの家に嫁ぐとなっても、自分が出来ることを精一杯成し遂げたいという感情すらも生まれてきた。