研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。


足の動きを確認しようと下を見れば、真っ直ぐに立つという基本姿勢が崩れる上にどんどんと目が回ってくる始末。

「目線は常に相手を見つめること!踊っている時の二人の空気感を堪能できなければ意味がありませんよ!」

完璧な令嬢を見せつけるためだけではなく、踊っている間は二人の距離を縮められる最大のチャンスなのだ。それを逃さないようにするためにも目線は合わせるように意識する。

恋愛指南書で学んだ女の視線テクニックをここぞとばかりに使おうと瞳を潤わせるが目線のことばかりに気を取られ、足元が狂う。

「っ……」

センルの歪んだ顔を見て、咄嗟に足元を見れば見事に彼の足を踏みつけている。

慌てて身を引こうとすれば今度は体勢が崩れ、後ろにひっくり返る羽目に。痛みに顔を顰めながらも前に立つセンルに頭を下げた。

「ごっごめんなさい!」

「イリア様もお怪我はございませんか?」

「私は平気です。その……視線に気を取られてばっかりで足元が縺れてしまって……」

差し出された手を取りながらゆっくり立ち上がると、再び頭を深々と下げて謝罪するしかない。

出会った当初ぶりのイリアの品のない様子に声にならない感情をエルメナは彼女に無言でぶつけてきた。

圧を感じたイリアは慌ててセンルと共に構えの姿勢を取ると、再び覚束無い足取りでダンスを始めた。

どちらが先に音を上げるかの勝負になりつつある中、手厳しいエルメナと負けず嫌いのイリアの勝負は夕刻になるまで続いた。




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