研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
頭を使うことばかりしてきたイリアだったが、体にも叩き込めばきっと身につくはずだと信じて何度体勢を崩して転んでもめげることはしなかった。
余裕はなかったがしっかりと成し遂げようとする気持ちは、エルメナの瞳にも映っていた。
鬼のような厳しい日々の特訓の成果は着々とイリアに身についていって、お茶会を三日後に控えたその日の午後。ダンス練習が板についてきたと感じていたその時、最後まで足元を見ることなくダンスを踊りきることができた。
「で、出来た……」
体の芯のぶれはまだ辛うじてあるが、向き合う相手と常に真っ直ぐ向き合ったまま踊りきれたのはこれが初めてだった。
踊ってくれた相手が放つ拍手の音がやけに大きく耳に響き、達成感というものはまだやって来ない。
踊りきった、それだけがイリアの心を掴んで離しはしない。
「イリア様」
鋭い視線を向けたまま立った姿勢をやっとこさ保っているイリアに、エルメナがゆっくり近づくとふわりと初めて会った時の甘い香りがイリアの全身を優しく包んだ。
香りを堪能しているばかりで今自分がどういった状況なのかを把握するのに、時間が掛かりすぎて耳元で名前を呼ばれてようやく抱きしめられているということに気づく。
「ここまでよく耐えてくれました。もう貴方に教えることはありません。ここまで全てを習得した貴方はきっと素敵な殿方に出会えるはずです」
「エル、メナ様……?」
「厳しい言葉をたくさん投げてきたことをどうかお許しください。貴方という素敵な方を幸せに導くために必死でした。これからも前をしっかりと向いて歩んでください」
抱きしめられるその温もりは心地よくあれだけ悲鳴を上げていた体は、癒されるように痛みを緩和させていっていた。