研究オタクな令嬢は、ドラゴン【研究対象】に夢中。
最初出会った時に付けられた点数がイリアには努力せねばと奮い立たせていたものであって、エルメナがどのような想いでその言葉を投げたのかは分からない。
だがエルメナ自身もイリアを成長させるために厳しい言葉を投げていたのだ。彼女も日々悩みながらイリアと向き合っていたのだろう。
エルメナの震える体をそっと抱きしめて、肩に落ちた冷たい雫に何も言わずにありがとうございます、と小さく呟いた。
一つ深呼吸をしてからイリアから離れるように動いたエルメナの瞳は輝いていて、その瞳を見たら自然と笑顔が生まれた。
「私、ちゃんと殿方の心を掴み取れるよう頑張ります」
「ええ。もし嫁ぎ先が見つからなかったら承知致しませんからね」
「肝に銘じておきます」
わざとらしくドレスの裾を摘み上げて小さく笑うと、エルメナの精悍な顔立ちがイリアを突き刺した。
その顔立ちにまだこの人を前にして調子に乗ってはいけないと姿勢を正す。
小さなこのやり取りが妙におかしくなって吹いてしまうと、釣られるようにエルメナも笑い出す。
エルメナの使用人が荷物をまとめて持ってくると、エルメナはいつものように凛とした表情でイリアを見つめた。
「これにて私はお暇致します。どこかで貴方の噂を聞けることを楽しみにしておりますよ」
これでお別れになるということを今更理解したイリアは、これまで教わってきたこと全てを出し切るように渾身の力を込めて綺麗にお辞儀をして見せる。
「満点です。では……イリア様、お元気で」
「はい。本当にありがとうございました」
イリアの挨拶を聞いたエルメナは振り返ることなく、大広間から立ち去るその姿に向かってずっと頭を下げ続けた。
ようやくやって来た達成感と感謝の気持ちが、少しだけイリアの視界を歪ませたのだった。