秒速ファシネイト
冷たい雨の日




6月にしては気温が低い、梅雨の冷たい雨の日だった。




「ねえ。傘ないの?」




帰ろうとしたら雨がザアザアけっこうな勢いで降っていて、傘のない私が途方に暮れていた、そんな時だった。




ふ、と空から隣に視線をうつす。



クラスメイトで、話したことはたぶん一回か良くても二回(そして超事務連絡)の、一条凪(いちじょうなぎ)が私を見下ろしていた。




「…まーね」




私は素っ気なく答える。




一条凪。


頭は良いらしいけど、それ以外は特にこれといった特徴のない目立たない男子。



悪いが全く興味はない。





「ふーん?」





その声に、少しバカにするような響きが含まれていたような気がして。



私はそらした視線を、再び一条凪に向ける。





「今日は天気予報で降水確率100%だったし、朝からいかにも雨降りそうな天気だったのに。
傘忘れたの?」



「…だったら何」





天気予報なんていちいちチェックしてないし。





「別に?」





私の明らかにイラついた声を歯牙にもかけていない様子の一条凪。





「木村さんっていつも偉そうだけど意外とバカなんだなって。それだけだけど?」




< 1 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop