秒速ファシネイト
冷たい雨の日
6月にしては気温が低い、梅雨の冷たい雨の日だった。
「ねえ。傘ないの?」
帰ろうとしたら雨がザアザアけっこうな勢いで降っていて、傘のない私が途方に暮れていた、そんな時だった。
ふ、と空から隣に視線をうつす。
クラスメイトで、話したことはたぶん一回か良くても二回(そして超事務連絡)の、一条凪が私を見下ろしていた。
「…まーね」
私は素っ気なく答える。
一条凪。
頭は良いらしいけど、それ以外は特にこれといった特徴のない目立たない男子。
悪いが全く興味はない。
「ふーん?」
その声に、少しバカにするような響きが含まれていたような気がして。
私はそらした視線を、再び一条凪に向ける。
「今日は天気予報で降水確率100%だったし、朝からいかにも雨降りそうな天気だったのに。
傘忘れたの?」
「…だったら何」
天気予報なんていちいちチェックしてないし。
「別に?」
私の明らかにイラついた声を歯牙にもかけていない様子の一条凪。
「木村さんっていつも偉そうだけど意外とバカなんだなって。それだけだけど?」
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